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その依頼の時、彼は女魔術師と男性の盗賊の二人と仲間を組んでいた。
どちらかといえばぱっと見、ガラの悪いこの二人と一緒に取り組んでいた仕事は、よりによって攫われた子どもを助けることだという。
一にも二にもなく飛びついた仕事だったが、情報は少ないわ、どうやら町の有数貴族が絡んでるらしいわで、事態の進展は思わしくなかった。
そんな中、怪しいと睨んで忍び込んだ郊外の別荘で、21才になった青年は思わぬ出来事に直面する。
「ミーク、何か聞こえない?」
黒水仙の異名を持つ魔術師ミルヒは、足を止めて耳をそばだてた。
ミークと呼ばれた盗賊も、うなずいて気配をいっそう押し殺す。
コリンも立ち止まって、さまざまな感覚が自分よりも遥かに優れている二人の様子を見守っていた。
もちろん、コリンも長旅の間で冒険者としては欠かせない第五感のようなものを備えている。それがコリンにも何かを訴えていた。
背筋が、ちりちりと焦げるような感覚・・・その正体が必ずしも危険とは限らないが、決して無視して良いものではない。
「・・・おやおやおやぁ〜〜〜」
間の抜けたような、見下しているような、遊んでいるような。
そんな声が、想像してたところとはまったく別の方角から聞こえた。・・・三人はその瞬間にそれぞれ、まったく別の方向を向いてしまった。 そして敵がいた場所も、そのどれでもなかったのだ。
その間が、敵に絶好の好機を与えていた。
「ワシの楽しみを邪魔するのはぁ〜どこのどいつですかねぇぇぇ〜〜〜」
どぉん
暗い廊下に、三人の中心に爆発する炎。三方向に吹き飛んだ彼らの中で、とっさに盾でかばうことのできたコリンが真っ先に立ちあがることができた。
それでも、どこか打ったのか頭がクラクラする。
「ミーク!ミルヒ!!!」
二人は命に別状はなさそうだが、まだ体勢を立て直せずにいる。
「邪魔はさせないよぉぉぉぉ〜〜〜」
廊下の向こう側へ、声が遠ざかる。 仲間二人を何とか抱き起こし、憎悪の目を向けて三人が後を追った。
廊下の突き当たりに、ひときわ大きくて立派な装飾の扉があった。
天井まで届くと思われる大きな扉だった。 コリンが力任せに扉を押す。徐々に開いてゆく扉の向こうの景色が見えた時、コリンの目は大きく見開かれた。
過去と重なる風景。
過去と重なる時間。
黒い魔術師。
泣き叫ぶ子どもの自分。
世界を燃やし尽くす炎。
痛くて、悲しくて、絶叫したくなるほどの辛い記憶の数々。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・ それでもたった一つだけ、たった今まで封印されていた記憶。それは・・・
―――「・・・コリン?コリン!!ああ、良かった、お前だけでも無事だったか!」
助けに来てくれた、大好きな大人たち。
抱きしめられて、ほっとした僕。
その肩越しに見ていた景色。
辛そうな顔をして、泣き出す人がいた。
部屋のすみに駆けていって、苦しそうに吐き出す人がいた。
あれは・・・!―――
「うわぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
気がついたら、激しく吐いていた。胃の中のもの全部吐き出しても、収まる気配がなかった。
「コリン!?」
「コリン!おい、どうした!大丈夫か!?」
ミルヒもミークも突然のことに激しく驚き、あわてて声をかけるが青年に聞こえている様子ではない。
「ジャマって言ってるでしょぉぉぉーーー」
三人が気付いた時には遅かった。 彼らの全身に、雷が落ちたかのような衝撃が走って、ミルヒとミークはゆっくり崩れ落ちる。
「ひっひっひっ、ワシの邪魔をするなんてぇ、なぁんてお馬鹿さんたちぃ・・・・・ひっ!?」
最後の声は、笑い声ではなかった。 息を呑んだ時、その魔術師の傍に、人とも思えぬ気配を発した何者かが立っていたのだ。
いつの間に立ちあがったのか。
いつの間に傍にいたのか。
・・・そんなことを考える間もなく、目の前に現れたは死者よりもまだ冷たい瞳。
全身がボロボロに傷つきながらも、まるで痛みを感じていないかのように、それはゆっくり剣をふりかぶった。
眼前にいて、魔法なんて間に合うはずもない。 「た、たすけ・・・!」
ガァン!
力のすべてをこめて振り下ろされた剣は、魔術師の頭上に落ち、身体を切り裂き、床にまで達して鈍い音を発した。 返り血を身体に浴びた青年は、しばらくそれを見下ろしていた後、炎が燃える音に振り向いた。
入り口に、ミルヒとミークが倒れている。微動だにしない。
彼らを襲った二回の衝撃を考えると、生きているはずがなかった。なぜ、自分が立っていられるのかが不思議なほどだ。
自分が、殺したようなものだ。
今まさに炎に飲まれようとしている二人から視線を転じて、その動きが止まる。
目を逸らそうとは思わなかった。 知らず知らずのうちに涙があふれてきた。
「・・・」
まるで子どものような足取りでそれに歩み寄り、膝をついて、深く深く頭を下げた。
「・・・同じことになるなんて・・・」
息をしていないそれに向かって、コリンは消え入りそうな声でそう呟き、ただひたすら泣き続けた。記憶から吹き出してきたさまざまな感情が、行き場を失って彼自身を容赦なく傷つけていた。
身体の一部分が欠けたこども。
半分腐敗がはじまっている少年。
やせ衰え、泣きつづけたまま眠ったかのような少女。
・・・すべてが終わって、骨となり、風になる日をただ待ちづつける無数の死体たち。
「僕は、なんのために、生きているんだ・・・」
―――何のために、今まで生き続けてきたんだ?
教えてくれ、イーリス、トニー、ブルーノ、ベラ、オルト・・・
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