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その日、あいつは私の首にペンダントのようなものを掛けて祈りの言葉を呟いた。神聖語の意味はわからなかったけど、触れた指先から温かいものが全身に行き渡るのを感じていた。
祈り終わると、強く抱きしめられた。
元気でね。そう囁くあいつを抱き返して、お前ももな、と私は答えた。
次に目を覚ました時、闇の中にあいつはいなかった。本来いるべき場所へ帰ったんだ。
眠っていた私の肩に外套のような物が掛けられていた。外を歩くのは寒いと思って置いていってくれたのだろう。
少しして、迎えが来た。先を歩く男の背を追いながら、私の頭を疑問がかすめた。何故って、私の両腕は縛られていなかったから。
不思議に思いながらも、おとなしくついていくと私は一つの部屋に通された。応接室のようなその部屋には一人の上品な中年女性がいた。
「セラ!」
振り向くなり、その人は私をそう呼んだ。
頭を殴られたような気がした。何を馬鹿な事を言ってるんだ、と言いかけて、私は慌てて自分の顔や手を確認した。
繰り返し受けた拷問のために腫れ上がり、血を流していた傷が嘘のように消え失せていた。右手の甲にくっきりとあったはずの百合の花は、薄くその形を残すのみ・・・。
あいつの仕業だと悟った瞬間、私は身を翻して駆け出した。走りながら、どんどんと膨らむ不安に、息ができなくなりそうだった。
中央広場は閑散としていた。公開処刑は既に終わっていたんだ。
「セラ!」
呼ぶ声に答えてくれることを願って、私は少女の名を呼びながら広場を駆けた。
滲みゆく世界から少女が消え失せる。そんな事があってたまるかと思った。
ふと、あの声が自分を呼んだ気がした。
振り向いた視線の先。並べられた幾つもの首の中に、セラがいた。思えば、セラの顔を見たのは出会った時の一度だけだ。なのに、すぐにセラだとわかった。
「こんな、穏やかな顔をして死ぬ奴がいるか!」
柔らかな金髪に包まれた、少女の首に怒鳴りつけた瞬間、こらえていた涙が堰をきってあふれた。
そう、ここだ。ここにお前を連れてこようと思ってた。この広場で、セラは私の代わりに絞首台にのぼって死んだ。
首がここに置かれていた。
セラの首を抱いて、私は生まれて初めて神に祈ったよ・・・。
私の話しはこれでお終い。次は・・・お前が話す番じゃないか?
・・・ はい。あなたは全てを正直に語ってくれました。今度は自分の話しを聞いていただかねばなりませんね。
自分がこの街の神殿にきた時のことを覚えておられますか?・・・ええそうです。自分は神殿に着くなり、あなたの前で泣き出してしまったのです。
神殿にいるはずの姉が、四年前に死んだと聞かされて・・・。ずっと離ればなれになっていた唯一の肉親を失った悲しみは、たやすく自分の心を砕いてしまいました。
いつまでも姉の死から立ち直れない自分を、あなたはかなり荒っぽく慰めてくれましたね。自分はそれからあなたを姉のように慕ってきたのですよ。姉と同じ名の同じ金髪碧眼のあなたを。
疑問がなかったといえば嘘になります。死んだ姉の墓参りをしたいと司祭様に言ったところ、ひどく複雑な顔をされて、姉の墓のある場所を教えてもらえなかったのです。
深い理由があるのだろうと思って、自分はそれ以上司祭様に尋ねませんでした。しかし今日あなたの手にある印を見て、姉の墓を探しました。四年前に、司祭様が依頼した姉の墓を・・・。
見つけた墓標に刻まれた名前は、フランカ。
あなたの本当の名は、フランカというのですね?
姉は・・・セラはあなたのために死に、そしてあなたは今、セラとして生きているのですね。
自分は、もしあなたが自身のためだけに姉を殺し、神殿に隠れて悪事を働こうと考えているのなら、許さないつもりでした。
でも、そうじゃなかった。自分は今、とても嬉しいのです。
あなたを助けた姉の気持ちがわかる気がします。
そんな顔をしないでください。姉は深い理由があって、あなたを助けたわけじゃない。
きっとあなたが好きだった。あなたに美しい世界を見せたかった。ただ、それだけなのです。だから、サクリファイスという奇跡を神に願った。あなたのせいではありません、己をこれ以上責めたりしないでください。
今日こうして話すことができて良かった。あなたは明日には旅立ってしまわれるから。
あなたの旅が、大切なものを得られる、素晴らしいものになることを自分は、この街で祈っています。
あなたには、弟である自分がいることをお忘れなく。嫌がってもだめです。あなたはセラとして生きていくのですから。
いってらっしゃい。姉さん。
> continued to “The Sun”
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