The Sun外伝


セラ プレストーリー


<告解>

Written by ゆきの





薄暗い店内で自分は一人、すみっこの席に腰を下ろして人を待っていました。

先程、運ばれてきた果実種をちびちびと飲みながら店の入り口を眺め、もうじきやってくるだろう人の事を考えます。すると、緊張からか身体が震えてくるのです。

今日、あの人の手にあった印を見て、見なければよかったと何度後悔したでしょう。

見ていなければ、あの人を疑うことは無かった。こんなふうに真実を知ろうなどとは思わなかった。でも、自分は見てしまったのです。

彼女の右手に焼き付けられた百合の花を。



あの人が来たら、自分は問い掛けなければなりません。



何故、あなたはここにいるのですか?

何故、あなたはその名前を名乗っているのですか?

あなたは一体、誰なのですか?






呼び出したからには何かと思えば、酒が飲みたければ一人でどこでも行けばいいだろう。なんで、私がお前の酒に付き合ってやらなきゃならないんだ。

はぁ?聞きたいことがある?

なにを聞きたいって?

・・・右手の、しるし?

あぁ、これか。そっか、見られたか。今日の仕事で破れたから誰か気付いたかなぁ、とは思っていたんだ。

まぁ、聞きたいと言うのなら教えてやるよ。いずれ、お前には話そうと思っていた事だし。少し、長くなるかもしれないがいいか?

じゃ、その前に、酒を・・・別にいいだろう?話しの前に喉を潤すくらい。

なに?酔った振りして、はぐらかすつもりかって?

するか、そんなこと。あんまりうるさいとこのまま帰るぞ。

そう、わかればいいんだ。

さて、どこから話そう。やっぱり最初からかな、そうしないと納得しなさそうだもんなお前は。・・・頭が堅いから・・・。





私が生まれたのは、このロアール王国のトリスという街。かろうじて街と呼べる程度の小さな街だよ。みんな信仰が厚くて、毎朝祖母に手を引かれて神殿にお祈りに行ってた。

街の人間の殆どが顔見知りって感じだから、噂なんてその日の間に広がって、悪さした時なんか、一歩進むごとにお説教されたりして最悪なんだ。

私は、生まれ落ちたその日から住人たちの話しの種になった。理由は、私の容姿に問題があったから。

私の両親は、二人とも髪も目も薄い茶色をしていた。でも、私は金髪に碧い目。こりゃおかしいって誰でも思うだろ?金髪はいい、祖母がそうだったから。でも碧い目は?っていう話しになる。

母は泣きながら言ったらしい。私はけっして浮気などしていないと。

その言葉を父も祖母も信じたかった。でも、私を見るたびに心のどこかが囁く。もしかしたら、と。

そんなしこりを抱えながら時間は過ぎて、私は十二になっていた。

その頃には、私も自分の眸の色がおかしなことには気付いていた。父も母も祖母も、家では絶対その事には触れない。私も何も言わなかった。

でも、一歩外に出れば、人々の咎めるような視線と、小声で交わされる中傷がそこかしこにあった。

母は、綺麗で優しくて、慎ましい女性だと周囲から言われていた。それが、私という存在のせいで、街の人に冷たい目で見られるようになってしまった。

聖女の皮をかぶった女狐だと、皆は言った。よく、恥ずかしげもなく街に住んでいられるとも言った。

悪意のこもった言葉を恐れて、母は外に出なくなった。家という殻にこもって、いつも脅えるように暮らしてた。

私も、学校の帰り道を歩いていると、密通の罪を犯した女の子供だと、聞こえよがしに言われた。

よく、耳を両手でふさいで走って帰ったよ。

家に着くと、母と祖母が夕食の支度をしている。ただいま、と声をかける。すると母はびくりと肩を震わせて私を見る。消え入りそうな声でおかえりなさい、と呟くんだ。

父も母も腫れ物を触るように私に接していた。抱きしめてくれた事なんか一度もなかった。

家庭という本来暖かいはずの空間が、私がいることで異質なものへと歪んでしまったと思った。それが辛くて、悲しくて、何度も両親に謝った。

抱きしめてほしいなんて言わない。愛してほしいとも言わない。ただ、せめて傍にいさせてほしかった。




ある日、家を一人の旅人が尋ねてきた。皆出かけていて、家には母だけがいた。

その旅人は隣と間違ってうちを尋ねてしまったらしく、すぐに立ち去ったと母が言っていた。でも、その様子を見ていた街の人は触れ回った。

あの女が、旅人を家に連れこんでいる。しかもその男は金髪碧眼だったと。

話しを耳にした父は鬼のような形相で家に帰ってくるなり、母を責めた。

「やはり、俺を騙していたのか」

父が怒鳴ると母は真っ赤な目をして否定した。声が枯れるくらい何度も、説明を繰り返した。父も母も限界だったんだ。

父は、信じられるかと叫んでソファに座ったまま動けない私を指差した。

「この娘は、お前が不義を働いた証だろうが!」

叩きつけられた言葉に母も私を見た。母はどんな気持ちだっただろう。無実の自分を地獄へと突き落とす、碧い瞳を持った私を見て。

涙に濡れた瞳は、何も映しておらず、ただ暗い憎しみが一気に燃え上がるのを見た気がした。ふらりと立ちあがった母の、病的なまでに白い手がテーブルの上にあった果物籠からナイフを取り出した。

ナイフを握りしめて母が私の正面に立つ。私は母の血走った瞳に呪縛されて動けないまま、ゆっくりと下りてくるナイフを見つめた。

右胸よりやや上に、それは突き刺さる。私は激痛に悲鳴をあげて母を突き飛ばそうとした。突き出した手を掴まれ、続いて肩に鋭い痛みが突き立つ。痛みそのものが、母の負った傷のように思えた。

涙に揺れる視界、母の肩ごしに父が見えた。

父は、笑っていたよ。母の行為に、彼女の心が自分の下にあると満足したような笑みだった。

私の中で、何とかすがりついていた細い糸が、音もなく切れた気がした。

後の事は覚えていない。目を覚ましたのは神殿のベッドの上だった。

私は真っ白な四角い部屋で寝かされていて、傍には誰もいなかった。身を起こすと、母に刺された傷が痛んだ。

ベッドの脇にそえられている靴を履いて、私は神殿を抜け出し、トリスの街を出た。







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