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「・・・目が覚めたとき、私は一人で、近くの村で介抱されていたの。薬を嗅がされていたみたいで、一週間くらいも意識を失っていて・・・それから皆の行方はわからないまま」

奴らに捕まった彼らは、殺されたのか、逃げおおせたか。

それとも彼らの言う、何かの目的のために? 

・・・

・・・

・・・ わからない。何も。

「ここが、思いつく場所で一番近かった。バルドだけでも、消息はわからないかと思ったのに・・・私が一人で来てしまって、かえって妙な誤解を与えてしまったようね」

確かに、ティティスは彼らが死んだとは一言も言っていない。だが彼女が一人村に現れ、バルドはいないか問われて、村人たちが不吉な予感を覚えたのも無理ないことだろう。

「・・・あの」

「どちらにしても」

なんとか慰めようと思ったセイニーの言葉を、エルフの鋭い、でもどこか暗い声がさえぎった。

ティティスは目の前でパチパチと静かに燃える炎から、目を離さない。セイニーの言いたいことをお見通しの上で、あえてその言葉を封じたのは明らかだった。

「ここにバルドがいないのなら、私はすぐにでも行くわ。・・・みんなと、いつかまた出会うのよ」

その決意に、セイニーが口を挟むことはできなかった。

止めることも、ついていくことも、慰めることすらできず。・・・それがどれだけ哀しかったことか。

ティティスはたちあがると、羽織っていたマントをセイニーの肩にかけた。何かの縁で出会い、仲間たちの安否を気遣ってくれることへの、ささやかな感謝の変わりに。

「あなた、シャロットに少し似ているかもしれないわ」

「え?」

「なんとなくね。なんでかしら」

唐突にそんなことを言われ、面食らう顔を懐かしげに覗きこんで、ティティスはそこに何かの面影を見出そうとしたのかもしれない。

「似てるとしたら・・・」

セイニーがさびしそうに笑った。

「私が、今も弟を救ってくれたあの光を、ずっと忘れずにいるからなのかもしれません」

「そう・・・」

ほんの少しだけ、うれしそうにエルフは笑った。

「あの・・・ティティスさんも、気をつけて」

今のセイニーに言える、これが精一杯の言葉だった。

「ええ。彼らの身にもし何か起こってるとしたら、それを助けるのは仲間である私の義務なの。中には本当に世話の焼ける奴もいるんだけどね」

ほんの少しの茶目っ気を含んで、今度は少しさっぱりした様子でティティスは笑った。胸につかえてたものがやや和らいだのかもしれない。

「あなたは、あなたのできることで精一杯生きてちょうだい。それで、もし良ければ心の中であの人たちが無事であるように、祈ってあげて」

「・・・はい!」

「ええ。それから、もし・・・もしも私たちと戦った人の言うことが本当なら、これからこの国は・・・いえ、もしかしたら大陸全土もまきこんで、大きな戦が起きないとも限らないわ。

ほんの少しでもいい、何かの力を身につけなさい。あなた自身の身を守るためにね。

せっかく助けた人が、またどこかで生命を落とすなんて嫌だから」

セイニーはその言葉を胸に刻み、はっきりと答えた。

「はい。どうか、ティティスさんも道中ご無事で」

一つうなずくと、炎に照らされた薄緑の髪が揺らめき、そのまま夜の雨の中へと去っていった。






―――あなたは、あなたにできることを。


エルフがその場を立ち去ったあと、セイニーはその言葉を反芻していた。


―――シャロットに少し似ているかもしれないわ

―――あの光を、ずっと忘れずにいるから・・・


あの光。あの唄を。


・・・五年前の出来事を思い出し、セイニーは長く考えた末に、こうつぶやいた。

「ティティスさん、私、シャロットさんのあとを目指したいと思います」

あの日のように、今度は自分が誰かを救うことができるのならば。

これは、たぶん天啓というものなんだろう。

「そして、みなさんの無事を毎日お祈りします」

祈ることが何かの力になるのなら、毎日でも、何万回でも祈ろう。



だから・・・今だけは。



嗚咽がもれた。

あの人たちはもういない。ティティスは一人で行ってしまった。目標は見つかったが、今の自分はどこまでも無力な存在で・・・

いろんな想いが一気に胸に押し寄せてきて、辛いのか、悲しいのかわからないのに、ただ感情だけがとめどなくあふれてくる。

それを、我慢しようとは思わなかった。

どれだけ泣き叫んでも、雨の音が消してくれるから。

セイニーは泣いた。

涙を見せなかったあのエルフの分まで、長い間一人泣きつづけたのだった・・・。







2年後






レイナス=トーンは久しぶりに姉の元をおとずれた。ロアール王国の港町、シエルプールの神殿で、僧侶としての仕事に就いているのだ。

「元気そうだね、姉さん」

すっかり僧侶として板についたセイニーが、安心させるように笑って聞いた。

「お父さんは?」

「うん、最近は調子いいよ。姉さんからもらった薬が効いてるみたいだ」

「そう、良かったわ」

弟の目から見ても、姉はこの「人を救う」仕事が性に合っていると深く感じた。

後先考えず、むやみにどこまでも突き進んで行く自分にはたぶん向いていない仕事だろう。・・・そんなレイナスは、父親からすでに土地を引き継いでおり、あの村と関わり合いながら生きていくことに十分な生きがいを感じはじめている。

それぞれがそれぞれにできること。二人はお互いに、そのことを実感していた。

「で、あの話は?」

少し声をひそめたレイナスの声に、姉はゆっくりと首を横に振った。彼らの消息は依然として不明のまま、そういうことらしい。

「ううう〜」

悔しいのはやまやまだが、ここでうめいていても仕方がない。レイナスはあえて陽気な声で言った。

「あの人たちは、そうそう簡単に死んだりしないさ。たぶんまた、ひょっこり会えるって!」

「・・・そうね」

微笑んでセイニーは答えた。希望を持つこと、信じることが今の彼女の仕事でもあるのだ。

「さて、僕は村に帰るよ。父さんにはちゃんと話しておくから」

「うん、お願いね」

「それじゃ」

「気をつけて」





「セイニーさん、こちらお願いします! 馬が暴れて、怪我人が多数出た模様!」

「はい! すぐ参ります!」

胸に浮かぶ聖印に手を当てて、セイニーは駆け出す。

また、忙しい一日が始まろうとしていた。


> continued to 【 Invisible Enersy 】



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