Invisible Energy 第1話
| 【 2 】 一行はぜひお礼をということで、アルマン伯爵邸での夕食に招待されていた。 この場にはなぜかジョニーも同行していたが、いずれも先ほどの戦闘で初対面の顔ぶればかりだ。あれだけの騒動の中、一人ぐらい記憶にない顔が混じっていてもおかしくはないだろう。 ただの見物人がいくらなんでも、この場までずうずうしく付いて来るわけがないではないか。 まるっきり戦えそうには見えないジョニーを横目で見やりつつ、何とか自分を(無理やり)納得させる梁彰、マーフィー、ガリアン、セイニーの四人であった。 それぞれが名乗りあったあと、全員で豪華な食事を味わっている最中、梁彰はずっと気になっていることがあった。 先ほど共に戦った、身なりの貧しい少年の姿がない。 あれだけの働きをしたのだから場に呼んでやれば良いものを、気がつけば自分たちや伯爵の給仕をしていて、席につくような様子はまるでない。少年はそれが当然とばかりに黙々と自分の仕事を行い、一行をもてなす側にひっそりと立っている。 その対応の差がどうにも納得いかなくて、遠慮がちに話を切り出した。 「あの少年、すばらしいお手並みでしたね」 マーフィがぴくりとして耳をそばだてた。 年長者の彼には、梁彰のまっすぐな気持ちがわからなくもない。おそらく伯がその意味を解すことは、この先もずっとないだろうが・・・あえて何も言わず、彼は成り行きを見守った。 案の定アルマン伯は、その質問にいとも簡単に答えた。―――自分の持つ最高のおもちゃを見せびらかすような優越感と、わずかばかりの蔑みを含ませて。 「ああ、トマのことですね。父親が騎士だったおかげで、多少剣の心得もありますから、特別に側に置いておるのですよ」 「そう・・・ですか」 身分なき者が伯のような人に仕えることを、当然と疑わない口調である。梁彰はさすがに悟ったのか、トマの父親のことや今の身分のことなど、それ以上のことは聞けなかった。 話は変わり、伯爵は一同に仕事の依頼を持ちかけた。話の内容は、おおむねこのような感じである。 狩りが好きな伯爵は膨大な土地をいくつも所有しているが、そのうちのお気に入りの一つの森が少し前からある事情により、少々困ったことになっているという。 「魔法がかかっている気配があるのですよ」 森の近くにいつも立ち寄る小屋があり、そこで装備を整えて奥地へと出向くのだが、なぜか途中まで進むと小屋の近くまで戻されてしまう。森の入り口から数キロ離れた場所に目印にしている大木があり、そこからいつも狩りを楽んでいる奥へ進めないのだという。 気がつけば、後戻りした記憶もないのに出発したはずの小屋が見えるのだ。今のところ誰かが行方不明になったり、怪我をするなどの実害は出ていないが、これでは何事もないだろうと無防備に信じるほうがどうかしている。 しかし所有している山の土地は莫大なものだ。主人たる自分が近寄れないというのは、はっきりいって面白くない。 ぜひとも原因をつきとめ、できるなら問題を解決してもらいたいというのが依頼の内容だった。 「もしや先ほど馬車でお帰りになったときも、そちらから?」 ガリアンの問いに伯爵はうなずいた。ということは、先ほどの異形のものらは、森のほうから後をつけてきたことになる。あのような異形のものが現れるのは、森に入れなくなってから今回が始めてらしい。 とにかく現地に行って、調べてみないことにはどうしようもない。彼らはそう結論つけ、翌朝からトマの案内で森に向かうことになった。 マーフィーは伯爵から正式に報酬を、しかもかなりの高額を貰えることになるので、依頼を受けることに文句はまったくない。 ガリアンとセイニーは、もともとこの話を受けるのが神殿の仕事だ。 梁彰は話を受ける以前から伯爵を助けており、そもそもこういった相談事を断れる性格ではない。 それぞれの理由で。、一行はこの依頼を受けることになり以後長くパーティを組むことになるのだが、一同の中で一人だけ、この仕事に対してひどく後ろ向きな態度の者がいた。ジョニーである。 もともと彼は、さっきの戦いの報酬(どれだけ手前勝手な言い分であろうとだ)が欲しくて同行している。新しい仕事、それはそれで悪くない話ではあるのだが、 (相手が人間やゴブリン程度ならともかく、あんな魔物とやりあう仕事って言われても・・・) 命がいくらあっても足りたもんではない。そんなのはまっぴらだ、というのが正直な気持ちだった。 どうこの場を切り抜けようか思案しているうちに、伯爵は依頼を受けてもらえたと解釈したのか、満足げにうなずいた。 「依頼を受けていただけるのであれば、今夜はぜひ屋敷へ泊まっていって下さい。すぐ部屋を用意させましょう」 この時、マーフィーがあることに思い当たった。 「依頼はかまいませんが、私たちはこのとおり剣を振るうのが商売で、魔法の類の話になると正直わからない場面も出てくるでしょう。・・・できれば魔術師系統のお知り合いなどいらっしゃれば、応援していただけると大変助かるのですが」 「もっともですな。なんとか明日の昼ごろまでに、その筋の者を探すことにしましょう」 これで夕食は解散となった。トマが主人の命を受け、各自の部屋を用意するために下がっていく。 マーフィーと梁彰は、このまま屋敷へ泊まることになった。神殿の二人組は短い期間とはいえ旅に出るので、依頼の内容を司祭へ報告しなければならない。翌朝合流することを約束して、一度屋敷を後にすることにした。 「お嬢さん!」 屋敷を去ろうとする二人を追いかけて、ジョニーがあわてたように話しかけてきた。どうやらさっきの場は、かなりしどろもどろな言い訳で逃げてきたらしい。 マーフィーや梁彰にしてみれば「やる気のないヤツにいてもらわなくても結構」なので、初対面の彼を(しかも実力が良くわからない、この怪しい風体の人物をだ)あえて引きとめる理由があるはずもない。 セイニーが「なんでしょうか?」と振り向く。青年は、無視されてかなり不機嫌なガリアンには目もくれずに、彼女と話を始めた。 「あの、本当に魔の森に向かわれるおつもりで? あなたのようなか弱い女性が?」 「ええ、それが任務ですから」 「しかしお連れのドワーフさんとか、さっきの傭兵とか、強そうな人たちがいるではないですか。なにもあなたのような美しい方が、そのような危険なお仕事をされるなど・・・」 完全に無視されているガリアンの目が、露骨に細められる。どうやらこの優男、セイニーの身を案じてるというより、そのことを口実にセイニーを口説きたいとしか見えない。 ところが傍目から見ているガリアンにはわかるのに(というより誰が見てもわかるだろう!)肝心の彼女は、そういう方面には究極的にうとかった。ジョニーのことを、ただ単に「あまり戦えそうに見えない自分のことを、心配してくれている人」としか理解していない。 そのせいか、ガリアンにはむしろ面白い方向へ話は続いていった。 「危険なお仕事・・・とは言いますが、わたくしはもともとこのご依頼を承るよう司祭さまより仰せつかりましたし、ガリアンさんですとか、その他にも頼りになるみなさんがいてくださるので、何も危険なことなどありませんわ」 純粋なまでの微笑みに、ジョニーがぐっと言葉に詰まった。「頼りになるみなさん」の中に自分がいないことは明らかだったからだ。これはさすがに堪えた。 いやいや、自分はこれでも魔法使いの端くれ。そこいらの野蛮なヤツラより、今回の件ではよっぽどお役に立ちますよ! ・・・そう言いたいのは山々だが、己が幻術士であることはできるだけ伏せたい。ジョニーは、それが手品師が観衆にタネを明かすのと同じことだと思っているからだ。 「とは言いましても・・・今回の件は、魔法に関する知識が不可欠でしょう」 「ええ、わたくしたちも神殿に戻ってから一度司祭さまに、お知り合いの方で詳しい方がいらっしゃらないか聞いてみるつもりですが・・・ジョニーさんはどなたかご存知ないですか?」 ご存知も何も、今目の前にいる自分が一番詳しいに決まってる。 ・・・だからそれが言えないんだって と、心の中では延々と一人漫才が繰り広げられていた。 「そういえば、ジョニーさんはどういうご職業なのですか? 見たところ、剣で闘われるような方には見うけられませんが・・・ひょっとして、魔法体系にお詳しいのでは?」 ・・・ぐっ・・・この女性、可愛い顔して、いきなり核心を突いてくるではないか。 ジョニーが散々迷った挙句、出てきた答えはこうだった。 「しょ、職業・・・ですか? ・・・ ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・け、“賢者”です」 ガリアンは笑い出すのを必死でこらえた。本当の賢者は、自分ではたぶんそうは言わないだろう。 そんなドワーフの心中をさらに煽るように、話は続く。 「世界中の、さまざまな知識を学びながら旅しております」 一度特大級のホラを吹くと、ジョニーも開き直ったのかいつも通りの口の滑らかさが戻ってきた。すなわち、魔法のみならず、どんな知識もくまなく自分の頭に収められてるのだという。 「冒険者、というわけではいらっしゃらないのですね」 「ええ。あくまでも学び、世界を知ることが私の務めですから」 よく言うよ。 そう思いながら、ガリアンはセイニー相手に苦戦している、青年の対応がむしろ面白くもあった。 「では、やはり魔物相手ではジョニーさんでは“荷が重い”でしょうね」 「え、え、え・・・いや、決して役に立たないわけでは・・・」 「残念ですわ・・・」 セイニーは当然そのつもりはなかったのだが、ジョニーには“荷が重い”という部分が「やっぱり役立たずなのね」という風に強調して聞こえ、あわてて取り繕った。もちろん、どう対処したら良いかは頭の中ですっかりパニック状態だ。 魔物相手に闘うのはイヤだ。むさくるしい連中もたくさんいる。 でも可愛い娘もいて、何より役立たずと言われたままで引き下がるなど・・・ 考えているうちに、セイニーはジョニーにぺこりと頭をさげた。 「では、ジョニーさんも今後の旅はどうかお気をつけて。ご無事をお祈りいたしますわ・・・ところでガリアンさん、その魔法使いの件ですが・・・」 と、話を打ちきり、同僚と肩を並べて歩き出してしまった。ドワーフはもう爆笑寸前だった。 ジョニーの「それで終わりか!?」と、半ば呆然としながら焦るさまが面白く、ついつい「そうだな、まずは司祭さまにご相談して・・・」と話に乗る。青年はまったく、その場に一人ぽつんと取り残されてしまった。 「いやいや、私にだって力はあります。ぜひとも戦いのお役に立ってみせましょう!!!」 ここで引いたら男がすたる。やけくそ半分で、ジョニーは後姿の二人に叫んだ。 ・・・そんなわけで威勢良くタンカを切ったジョニーは、トマや召使の娘たちを言いくるめて、結局マーフィーや梁彰と共に屋敷に泊まることになる。 翌朝マーフィ−から、「なぜお前がまだここにいるんだ」という露骨な問いかけの視線を向けられ、ジョニーは口笛を吹いてそっぽを向いたのだった。 <back next> menu |