Tekken original story

〜King〜 二人の王者






【STAGE 0】




静かな雪の降る夜。


とある小さな村の孤児院の前で、一人の少年がかじかむ手をこすりあわせてしばらく立ちすくんでいた。

中から聞こえるのは讃美歌だ。暖かい、柔らかい天国に続くかのような光と音が、窓から漏れている。

少年は長い間そこに立っていた。そのまま、白い景色の中に溶け込むのを望んでいるかのように。

・・・それは唐突だった。扉のノブが、カチャリと小さな金属音を立てる。

だが、開いた扉の向こうに現われた姿を見て、少年は寒さも忘れて目を見開き、息を呑んだ。

天使でも出てくるのかな・・・? そう思っていたのに。

そこに、虎の頭をした生きものが立っている。自分を見下ろして、何事か聞いている。

不思議と恐怖は感じなかった。珍しいものを見るような目つきで、少年はそれを見上げた。

なんで虎が人間の言葉をしゃべってるんだ・・・?

そう考えたのが最後だった。ゆっくりと瞼が下りてゆく。

中から溢れる甘い空気に誘われて意識を手放すと、少年はその虎の人の腕に崩れ落ちた。









【STAGE 1】



「キング、います?」

シスター・メリルが呼びかけると、一人の体格の良い男性が部屋の奥から姿をあらわした。 上半身は何も身につけず、動きやすさを第一としたズボンと、手には虎の被りものが握られている。

いかつい体格とは裏腹に、静かで深い、優しい声が応えた。

「どうしたんだ、シスター。そんな困った顔して・・・また“あれ”が何かやらかしたかい?」

深い深いため息が、キングの問いの答えだった。言い訳のように彼女はつぶやいた。

「弱い子達にはあんなに優しくしてあげられるのに・・・」

「それもまた、あの子の良さでもあるだろう。どれ、今度はどう叱ってやったものかな」

虎の頭を被る男の声が心なしか嬉しそうに聞こえて、メリルは違う意味で深い吐息を漏らしたのだった。





「クリス!」

太い声は、大声ではしゃぎまわっている子供たちの間でも良く伝わった。 全員が一様に押し黙り、ただ一人、呼ばれた少年だけがビクっと身体を硬直させた。

「・・・はい」

他の子たちが不安そうに見守る中、先ほどまで気の済むまで散々暴れていた一人の少年が、硬直させた身体を反転させて答えた。 その顔には、はっきり「しまった・・・」と書いてある。

ぎくしゃくしながら振り向いてはいるものの、逃げれるものなら逃げたいと思っているのは明かだった。

少年の名はクリス・ウェイン。まだまだ幼さの残る、13歳の少年だった。

弱いものを放っておけない性格と負けず嫌いな性分で、おまけに喧嘩も強く、1対1なら多少年上と対峙してもそう簡単には負けない。挙句の果てには同じ年代の男の子が3〜4人束になって少年に挑み、互角に渡り合うという始末だ。おかげで少年が来てからというもの、トラブルの真ん中に少年がいなかったことなどない。

無論、クリスはただ無意味に喧嘩を吹っかけているわけではない。むしろ理由もなしに自分から手を挙げて挑むことは皆無だった。たいていは小さい子や女の子たちがからかわれて、その間に入って発展するケースが多い。

(強いことは決して悪いことではない)

キング自身がそのことを一番よく知っている。

しかし、他の子達の前でまさか喧嘩を推奨するわけにもいくまい。

だからキングはいつも、こういう形で少年を“叱る”のだった。

「うわわわわ・・・キング・・・ちょい待って・・・待ってってば! ぎ、ギブギブ!!!・・・い、いたたたた・・・」

今日はうつぶせにさせて左足を取り、えびぞりにしてがっちりと固めてやる。もちろん大人にやるほどには力は入れるわけもないが、少年がじたばた騒ぐと逆に、身体に負荷がかかるため、あちこちがギリギリ痛むのである。

様子を見ている小さい子たちは「にーちゃんかわいそう」という意見から「テレビでやっている技だ〜」と、何とも無情な感想で盛りあがっている。

一方でクリスとやりあってた他の少年たちは、一歩間違えれば自分たちが“あの”餌食になってたかと思うと、クリスを笑うことなど到底できず、蒼白になっていた。

「懲りたかね?」

「懲りた懲りた・・・いえ、懲りました! ご、ご、ごめんなさいキング!!!」

「ふむ、まだまだ元気のようだな」

「わーーーーー!!!」

その様子を遠くから見ていたシスター・メリルが、やはり先ほどと同じように特大級のため息をついていた。





―――キングは人気のプロレスラーだった。

試合で得た賞金を孤児院の運営費に当て、空いた時間を見つけては様子を見に戻ってくる、そんな毎日だった。

あるクリスマスの日。たくさんのクリスマスプレゼントを抱えて孤児院へ戻り、ささやかでも暖かいパーティを催している最中、キングはふと外に何者かの気配を感じた。

まさか本物のサンタクロースじゃないだろうな・・・などと、自分でも苦笑するような可愛らしい考えをめぐらせて扉を開けると、一人の少年が、いつからかそこに立っていたのだ。

・・・腕のなかに抱き取った、その日から少年は孤児院の一員となり、あれから3年が経った。

キングは孤児院にいないことの方が多かったが、同年代の子の間でも、クリスの喧嘩強さは目を見張るものがあった。そしてときどき顔を出すたび、その強さは磨きを増しているような気がする。

一方でクリスはキングを慕っていた。いや、むしろ「崇拝」というのが正しい。そしていつのまにか、見よう見真似で技の練習などをするようになった。

他の男の子も、仲間同士でよくキングの真似をする。しかしそれは、あくまでも遊びの延長でしかない。クリスは、彼らと一線を違える何かがあるように見えた。

つきっきりで教えることはできないので、帰ってきた時には機会を見つけてはさっきみたいな体験を(技をかけられてる本人がどう思っているかは知らないが)させてやった。短い時間でできることと言えば、それくらいのものだ。

自分はもうすぐ30の齢に手が届こうとしている。いつまでリングに立ちつづけていられるのかわからないが、それでも自分を目指し、追いかけて来るものがあるならば、これからも走り、闘い続けていられるだろう。

ときどき見られる子どもたちの笑顔や、感嘆の声。

「キング、また勝ったね! すごいや!」

こんなささいな喜びこそが、キングの一番の心の支えでもある。そして、

(お前は、どんな男になって行くのだろうか)

少年を見守る目は、期待のまなざしで彩られているのだった。





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