< Blue Garden >
= 前編 =
・・・わたしの部屋の壁は、色とりどりの写真で飾られている。
飾りきれない写真も含めたら、たぶん100枚をゆうに越すだろう。
一番のお気に入りと聞かれたら、どれを選ぶだろうか?
どれも思い入れがあって選びがたいが・・・だからこそ最初のこの一枚を、わたしは選ぶに違いない。
ただ一色で埋め尽くされた、美しいを通り越してどこか神聖さをも感じさせる、一面の白い花。
・・・・あの時は、これがどこで撮られた写真なのか、ぜんぜん知らなかったんだっけ・・・。
近所のとあるデパートで、ささやかな写真展が開かれていた。
入り口にはプロ写真家によって撮影された桜の花が飾られており、買い物客の目を惹きつけては会場へと手招きしていた。
予約したCDを受け取るためにたまたまこのデパートへ足を運んだだけで、たまたまその日の予定がなかったわたしは、
他の客と同じように、その写真に魅せられてふらふらと中へと入っていった。
コンテストでもあったのか、一部の写真にはタイトルの横に「銅賞」だの「○○賞」だの、名誉の肩書きが加えられている。
わたしが立ち止まったのは、入賞した写真のどれでもなかった。
タイトルは「花嫁」。
それは、一面の白い花畑だった。
よく目を凝らすと、同じ白でも違う種類の花が栽培されているらしく、光の加減などからわずかに色が違ったりしていていた。
背景をあえてぼかすことで、なおさらその白がきわだって見える。
素人のわたしには写真の良し悪しはわからなかったが(賞に入らなかったところを見ると、ずばぬけて上手いわけでもないらしいが)
その写真の構成と、清冽なまでのその色に、思わず足を止めてしまった。
しばしその写真を眺め、やがて会場を去ったあとも、しばらくその画が頭に焼きついて離れなかった。
写真展は一週間続いていた。
三日ほどは時々思い出す程度だったが、展示会も終わりに近づくにつれ、もう一度あの写真を見たいという衝動にかられた。
親との大喧嘩で、気分が滅入っていたからなのかもしれない。
展示会の終わるのが月曜日。だが、夕方には早々に片付けてしまうだろう。
日曜日の夕方、わたしはまたあのデパートに足を運んだ。
あの写真は変わらずそこにあった。
やっぱり今日も、どうしてもその写真の前で立ち止まってしまう自分がいた。
その写真を撮った人の名前は明かに本名ではなく、「蒼」という一文字だけだった。
・・・この写真、欲しいなぁ・・・
今日を最後にたぶん二度と見れないと思うと、お金を出してでも手元に欲しいと思いはじめていた。
・・・写真ならもちろんネガもあるだろうし、上手く交渉できないかなぁ・・・
わたしは、受付にいて静かに座っているだけの女性に話しかけてみた。
ここの写真は、展示会が終わったら本人に返されるのか?
受付の人は、この企画を行った写真雑誌の元へ返されると答えた。
写真を欲しいという話はどこにしたら良いだろうか?
受付の人はしばらく戸惑った末、奥から責任者の人を連れてきてくれた。
展示会最終の休日ということで、たまたまその企画雑誌の編集者の人が来店していたらしい。
わたしはその男性に、この写真がとても気に入ったので何とか譲ってほしいと、熱心に訴えた。
担当者は最初は驚いた様子だったが、しばらく考えた末にこう答えてくれた。
コンクールに応募してる時点で著作権は我々の手元にあるが、他人に譲るとなると本人の承諾なしにはできない。
連絡先を教えてもらえれば本人にその旨を伝えるので、きっと焼き増しをしてくれるのではないだろうか。
わたしは住所と電話番号の書いた紙を渡した。もちろん担当者の名刺をもらうのは忘れなかったが。
一週間後、一通の封書が届いた。
裏書を見たが、ぜんぜん知らない名前だったので少し不安になった。
不幸の手紙(このご時世に!?)でも送りつけられたのだろうか、と一人苦笑する。
その割には、和紙で作られた、綺麗な模様の描かれている立派な封筒だった。
ヘンな内容だったらすぐ捨てるつもりで封を開けてみると・・・・中から、あの白い花畑が出てきて仰天した。
まさか本当に届くとは。
・・・短いメッセージもついていた。まるで初恋の人から手紙をもらったかのような気持ちで、わたしはその文を読んだ。
『あの写真をとても気に入ってもらえて、すごく嬉しい。どうもありがとう。
例の写真の他にも何点か同封します。気に入ってもらえると嬉しいです・・・・蒼』
わたしはさっそく、送られてきた3枚の写真を部屋に飾った。
明日、さっそくお礼の手紙を書こうと思った。
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