Key 〜 Memories in BattleGear





それは遠い遠い、記憶の扉の向こう側。

開く鍵は誰もが、胸の引出しの中に・・・今も、きっと。







父がゲームソフトを買ってきた。しかも初回限定版だ。何でも父がハタチくらいの頃燃えたゲームらしい。

となると、稼動していたのはもう30年も前ということになる。

『熱い車乗りたちの殿堂、そのすべて・・・伝説の走り、ここに完全復活』

昔のゲームの復刻版を見つけ、懐かしくてつい買ってしまったのだろう。



「父さん、これは何だろ?」

ソフトの他になぜかCDが三枚も同梱されている。どうやらそれが初回特典ということらしい。

解説書には、

『オンライン最終日のすべてのランキング、車種一プレイヤーたちのリプレイ映像、

20000にも及ぶ全国すべてのチームとステッカー、その他各種データ類を完全網羅』

とある。僕には???な内容だ。

ところが、肝心のゲームを放り出してその三枚を手に取るや否や、父親は自室にこもってしまった。

仕方なく僕は置き去りにされたソフトをプレイすることにした。



古いゲームだったにもかかわらず、僕はすっかり夢中になって遊んでいた。見たことのない車も多数ある。

その挙動、美麗で多彩なコース、気を逸らせるギターサウンド。すべてが新鮮だった。

その最中。

『ゴースト選択』

という文字が選択できないのに気付いた。

解説書を見ると、どうやら父の持ち去ったCDに他の人々のプレイが記録されていて、

それを読み込むことでその人と並んで走り、勝負することができるらしい。

そこで、一度ゲームを切り上げて部屋を後にした。



「父さん」

返事はなかった。僕はそっと扉を開いて、モニターに釘付けになってる父の脇から画面をのぞきこんだ。

「わっ、どうしたんだお前」

そこでゴーストの話をすると、父はいつになく興奮した様子で画面を指差した。

「これが当時全国で一番速かった人だ。どのコースでもずば抜けてたが、特に峠コースが速くてなぁ・・・」

見ると、あるコースではほとんどすべての車種を独占している。僕は目をみはった。

「父さんは?」

「オレかぁ・・・?」

父はちょっと頭をかき、苦笑しつつ画面を操作した。20位・・・40位・・・・・・・・・ずいぶんと長い操作だ。

なんとなく話の展開が予想でき、僕は結果を見る前に吹き出した。画面はすでに300位を指していた。

「笑うな。父さんの好きな車はなぁ、他の車に比べてあんまり速くなくて、しかも人気がなかったんだぞ」

そんなことを胸を張って言わなくてもいいと思う。

「でも、この車を乗ったら速いって自信はあったんだ」

画面が父の乗っていたという車種だけのランキングに変化した。確かに父は上から3番目くらいの順位にいた。

僕は「この車って・・・」と言いながら画面に手を触れた。とたんに画面が変わり、一台の車が表示された。

ナンバーが父の名前になっている。父もこの表示には驚いたようだ。

車は水平に360度回転しながら、その姿を晒している。綺麗な絵が貼りつけられていた。

「この絵はこの車専用なの?」

「いや、それは自分の車に貼れるステッカーだ。すごいな、そこまで記録が残ってるのか・・・」

そう言いながら他の人たちの車も表示させてみる。同じ車でも絵の部分だけが各々違っており、

個人で自由に変えれるものだと知った。

その他にも、このゲームの内容や数々の事件の話を聞いたりして、楽しい時間が流れた。



やがて父親が何かを思い出したように尋ねた。

「お前、ゲームで遊んでみたのか?」

どうやら単なる記録CDじゃなく、ゲームを買ってきたっていうことをようやく思い出したらしい。

「うん、中級って一番普通そうなところを走ってみた」

「車とタイムは?」

「まだまだ完走するのがやっとだけどね。ヘアピンが難しくて・・・MR−Sで3分切るくらいかな」

「じゃあオレの車を追っかけてみるか?」

「それ面白そう!父さんはどれくらいのタイムを出したの?」

「このコースは得意だったぞ。確か2分40秒前後だったはずだ」

そう言って、父は自分の記録を探して手もとの画面を操作した。

これを向こうの本体に読みこめば、父と一緒に走れるというわけだ。燃えないはずがない。

「速っえ〜〜〜!よーし、絶対抜いてやる!」

「おう、抜けるもんなら抜いてみな」








父の机の上にある、かつてそのゲームで使用した・・・今は使われていない一本の黒い鍵が、

誰もいない部屋でことりと小さな音を立てた。

それは最高の季節を夢見ながら、長い長い間引き出しに眠っていたものだった。

やがて息子と遊ぶ日々の中で、父の胸の内に再び思い出が蘇る。

1秒にすべてを賭けたあの頃の記憶と、ついに成し遂げなかった目標と。

それでもやめられないで走り続けた、抜きつ抜かれつの毎日を・・・。






それはきっと。

すべてのバトルギアプレイヤーたちの、未来の物語。






〜fin〜










モドル