初級〜海を翔ぶ白い鳥
はじめは、真っ白い鳥が風に乗って飛んでるのかと思った。
一日目。
山が震えるほど反響するエンジン音に、浜辺から思わず振り向いた。
一瞬で視界から消えたその車は、目に焼き付いて消えない光の残像のようだった。
二日目。
昨日と同じ時間、また白い鳥を見た。
同じ湾岸沿いから、街へ向かう通りに向かって。海から降りそそぐ朝日を浴びて。
三日目。
いつもよりさらに早起きしてみた。
毎日同じ時間に、ただ一度だけこの道を走ることを知った。
四日目。
いったいどのくらいのスピードで走ってるの?
見当もつかないほどの速さだということに、ようやく気づく。
五日目。
速さを意識してみても、やっぱり優雅に空を飛んでいるように見えた。
ブレーキを踏まずに。でもタイヤも悲鳴を上げずに。
六日目。
・・・雨が降った。
待ってみたけど、鳥は家で翼を休めてるらしかった。
何かの本で、あの車がとんでもなく速い車であることをいまさら知った。
七日目・・・晴れ。
休日なのに、かまわず早起きする。
砂浜をゆっくり散歩する。
小さい音を聞き分けた時、どれだけそれを待ち焦がれていたかに気付いた。
いつもよりだいぶ近い場所で、目の前を通りすぎて行くその車を見た。
・・・すれ違う瞬間、確かに「その人」はわたしと目が合った。
車は、いつものように街のほうへ走り去って行く。
嬉しいような寂しいような。
糸が心に絡んでいるような気持ちのまま、帰ろうとしたわたしの耳に。
もう一度、音が聞こえたのだ。
いつもよりずっと小さな音。落ちついた音を優しく響かせて。
音はわたしの前で静かに翼をたたんだ。
目の前にとまったその鳥を、驚きに満ちたまま眺めてあ然としていた。
中から降りた人が、照れくさそうに笑いながら話しかけてきた。
「おはよう・・・朝はいつも、この場所にいるね」
―――いつか聞いてみよう。
その素晴らしい車で朝日の昇る海辺を走るとき、
どんな風を感じるの?
モドル